飯塚高校サッカー部では、多くのスポンサー様からご支援をいただいており、選手とスポンサー様との交流を深めることを目的に、両者による対談や座談会を順次実施していくこととなりました。
今回はスポンサーの1社である「MERICAN BARBERSHOP」から、クリエイティブディレクターのヌマタユウトさんをお招きしました。
サッカー部を代表して登場したのは、「MERICAN BARBERSHOP」との出会いをきっかけに髪を切ることに興味を持ち、今ではチームメンバーのヘアカットをするようになった深見葉風です。
前編では、深見が将来目指す“理容師”という職業について、またヌマタさん独自の働き方や仕事観について、ヌマタさんにさまざまな質問をさせていただきました。
「個性を磨き続けて」ヌマタユウトが高校生に伝えたいこと
深見:今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。僕の将来の夢は理容師ということもあり、今日はお仕事についていろいろ伺っていけたらと思います。最初に、ヌマタさんが理容師を目指したきっかけって何だったんですか?
ヌマタ:「美容室が嫌いだったから」です。自分が通ってた美容室で、いつも思うような髪型にならなくて、「こうしてほしいって伝えてるのに、なんでこうなるんだろう?」と不満に感じていて。美容室そのものが苦手でした。
だからこそ、自分と同じように「美容室って苦手」「思い通りにならない」と感じてる人って、実はすごく多いんじゃないかなって考えたんです。だったら、自分がその嫌だった経験をもとに、人が本当に満足できる髪型を提供できる側になりたいなって。そう思ったのが、目指した原点です。
深見:ありがとうございます。ヌマタさんは僕たちに自信を持たせてくれる髪型にしてくれています。その理由が分かる気がしました。次の質問なのですが、日々どんな働き方をしているのか教えていただきたいです。
ヌマタ:平日は店でお客様の施術(サロンワーク)をしています。基本的にはサロンワークが中心で、予約状況に合わせて動いています。でも、朝から晩までサロンにこもりっぱなしというわけではなくて、予約の入っていない時間帯には、空いているスタッフと一緒に洋服を見に行ったり、街に出て外の空気に触れたりしています。そういう時間の中で感覚を養ったり、人とのコミュニケーションを取ったりすることも、僕らにとってはすごく大事なんです。
深見:ありがとうございます。毎日平均すると何人くらいのお客様の施術をしていますか?
ヌマタ:日にもよりますが、1日10人前後くらいです。
深見:10人を超える日もあるんですね! 理美容の業界で働く方はお客様から指名いただくことも大事ですよね。自分自身の魅力を高めるために、どんなことをしているか教えてください。
ヌマタ:僕は普段、飯塚高校サッカー部とのコラボのようなこういう活動に加えて、音楽をしている人たちのヘアを担当したり、サッカー選手みたいな、一般の人とはまた違うお客様と関わることも多いんです。そんな方たちと関わる中で思うのは、当たり前のことを当たり前にやる。その上で、自分にしか出せない独自の良さをどう見つけていくか、自分自身を研究し続けることが大事だということです。
外でスポットライトを浴びてる人って、やっぱり普通じゃないんです。話す内容とか、笑うタイミングとか、価値観そのものがちょっと違ってたりするんですよね。でも、そういう人たちに引っかかるトークやスタイルを考えるのが、僕にとってはすごく学びになっています。
僕は、美容師って縁の下の力持ちじゃなくて、主役だと思ってるんです。もちろん、感謝される仕事ではあるけど、ただ「ありがとう」って言われて満足するんじゃなくて、自分自身もスポットを浴びる存在であるという意識を持っていいと思う。
高校生の皆にも伝えたいのは、「個性を磨くことをやめないで」ということです。同じであることも大事だけど、それ以上に自分らしさをどう表現するか。失敗することもあるし、怒られることもある。でも、自分だけは自分を否定しないでいてほしいです。自分の気持ちや考えを一回受け止めて、「でも、そうだよな」って反省できれば、それでいいんです。
大事なのは、勘違いしないこと。自分の力不足で上手くいかなかっただけなんだ、って思えるようになれば、それはすごい力になります。自分のことは、自分で認めてあげる。それが、自分の個性や魅力をつくる一歩になると思いますよ。
深見:ありがとうございます。素直な心で、自分を肯定していきたいと思います。ひとつ前の質問と関連するのですが、ヌマタさんの職場の雰囲気が良さそうだなと思いました。そういう、いい就職先を見つけるにはどうしたらいいんでしょうか?
当たり前を超えていく。ゼロから価値を生む働き方
ヌマタ:逆質問なんだけど、深見くん的に「いい就職先」の定義はなんだと思いますか?
深見:ホワイトな職場であること、です。具体的には人間関係がいいとか、休みが取れるとか。
ヌマタ:オッケーです。最近のサロンって、うちもそうなんですけど、週休2日が守られていて、そこに加えて有給を取ったり、連休にしたりするスタッフもいます。だから働き方としては、かなりホワイトになってきていると思います。
ただ、どこまでがホワイトかっていうのは、人それぞれの価値観によって変わるんじゃないかなって。たとえば、美容師としてどこまで目指すのか、何をやりたいかによって、考え方は違ってくると思います。
僕自身は、営業中のサロンワーク以外にも、こうやって飯塚高校さんと関わったり、外部の人たちとコラボして何かをやることもかなり大事にしていて。それって営業時間外や休日にやってることも多いんですよ。でも僕は、それを「休日がなくなった」とは捉えてなくて、自分がやりたくてやっていることだから、むしろ意味のある時間だと思ってるんです。
だから、「このサロンはホワイトかどうか」を判断するには、実際にそのサロンに行って、働いてる人たちの顔の表情とか、スタッフ同士の会話の雰囲気を見るのが一番早いと思いますよ。楽しそうにしてるかとか、ムードがいいかとかいうのは空気感で分かるはずなので。そういう部分を自分の目で見てほしいですね。
深見:ありがとうございます。働く前は現場を見に行ってみて、手がかりを得ようと思います。そして働き始めてから、自分の目標や価値観を具体化して、どうありたいかを考えたいです。いい就職先の質問と関係するのですが、理容師さんのお給料事情についても伺いたいです。一般的にどれくらいもらえるのかを知りたいです。
ヌマタ:率直にいうと、僕はいわゆるサロンワーカーからは外れた働き方をしているので、あまり一般的なモデルには当てはまらないんです。でも、だからこそ伝えたいことがあって。
「当たり前を当たり前にする」というのはすごく大事なんですけど、それだけじゃなくて、「当たり前じゃないことを、当たり前かのようにやる」姿勢もとても大切だと思っています。たとえば、僕らが飯塚高校さんと関わって、選手の髪を切るようになったことも、最初は「そんなの無理だろう」っていう空気だったんです。
でも、中辻(喜敬)監督が学校やその他の先生たちにアプローチしてくれて、そのおかげで多くの人を巻き込んで、理解を得られるようになり、僕らも本気でやったから、今ではそれが当たり前になってきている。そうやって、ゼロイチで新しい価値をつくることって、将来的に報酬にもつながると思ってます。
で、現実的な話をすると、アシスタントの時期は正直、そこまで多くはもらえないのが一般的です。ただ、最近は待遇も少しずつ改善されてきていて、サロンによっては十分に支給しているところも増えています。スタイリストになると、基本給に加えて自分が施術した分に応じた歩合が加わる形が多いですね。
だから、最初はサロンの給与体系をチェックすること、そして「自分がどこまでやりたいか」目標を決めて行動することが、収入にも影響してくるんじゃないかと思います。
深見:ありがとうございます。最後に、高校生の今しておいた方がいいことについて、アドバイスをいただきたいです。
ヌマタ:「今、この瞬間を大切にしてほしい」っていうのは、強く伝えたいことのひとつですね。友達とケンカしたこととか、「アイツ嫌い」「あの先生ムカつく」「あの子が好き」「つらい」とか、そういう感情は全部、今のうちに感じておいたほうがいい。流したり、やけになったりしないで、その感情一つひとつを深く味わってほしいんです。
それが将来何につながるかなんて、今は分からなくていい。でも、17歳のその瞬間の感情って、大人になったらもう感じられないんですよ。「高校生の今しておいたほうがいいことは何ですか?」みたいなピュアな質問が出てくるのは今しかないんです(笑)。
だから、今あるこの環境を存分に噛みしめてほしい。
社会に出たら、もっと大変なことは山ほどあります。でも、今この環境を味わい尽くして生きていたら、絶対それを乗り越えられる力になる。今しか感じられないこと、今しかできないこと、全部やってください。
深見:ありがとうございました!
(後編「特別座談会:「一人ひとりが自分に時間をかける習慣を持てば、社会はより良く変わっていく」鮫島遼介×深見葉風×MERICAN BARBERSHOP・ヌマタユウト」に続きます)
企画・構成/池田園子