飯塚高校サッカー部では、多くのスポンサー様からご支援をいただいており、選手とスポンサー様との交流を深めることを目的に、両者による対談や座談会を順次実施していくこととなりました。
今回はスポンサーの1社である「岩田産業株式會社」から代表取締役社長 岩田章正さんをお招きしました。
サッカー部を代表して登場したのは、GKとして多くの試合で活躍を見せる原夢希です。高校卒業後は就職を考えている原と高卒採用を強化している岩田産業との親和性の高さから、今回の対談が実現しました。
岩田産業は岩田産業グループホールディングスの中核会社で、50年以上にわたって業務用食品卸事業を営んでいます。カフェ、ホテルや結婚式場、居酒屋などの飲食店に外食産業向け専門の食品を販売する企業というと、イメージしやすいのではないでしょうか。
前編では、原から岩田社長への質問を中心に、岩田産業という会社の中身や岩田社長の想いを深く探っていきます。
人生の価値は「努力を続けること」

原:今日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。岩田社長にお話を伺える機会ということで、お聞きしたいことをいくつかまとめてきました。まず、社長として一番大切にしていることは何ですか?
岩田社長:「自分が楽をせずに努力し続けること」です。それによって周囲が成長し、結果として会社がより良くなると信じています。社員たちにも「人生の価値は努力を続けること」と伝えています。
原:僕も飯塚高校に入ってから大きなケガを経験して、努力を続けていくことの大切さを痛感しました。中学までサッカー人生は順調でしたが、1年生のとき、練習中に腰を痛めて、グラウンドで動けなくなったことがありました。自力で歩けずに軽トラックの荷台に乗せて運んでもらったくらいです。ヘルニアと椎間板症という診断で、半年間サッカーができなかった時期がありました。
岩田社長:それは辛かったでしょう。
原:はい。リハビリ中はピッチの外から、同じポジションの選手や他の選手がトップチームに行ったり、試合に出たりするのを眺めていました。それが悔しくて、練習に行くのが嫌になったこともあります。
岩田社長:練習したい、がんばりたい気持ちはあるのに、ケガのせいでどうしようもできない。そうなると、人ががんばってるのを見るのは、気持ち的に苦しいですね。
原:しんどい時期でした。夏休みにみんなが遠征に行っている間、練習できない僕は長崎にある実家に帰省することになったんです。そうしたら地元の友人やそのお母さんたちから「高3で選手権の決勝戦に行ったら必ず見にいくからね」「ずっと応援してるからね」と声をかけられて。遠くからでも僕のことを見守って、応援してくれている人たちの言葉に励まされました。
岩田社長:飯塚高校では、同じ目標に向かって切磋琢磨する仲間であり、ライバルでもあるチームメイトたちと日々過ごしている。でも、地元に帰省したときに、自分を想ってくれる人たちの存在に気づけたことで、改めて故郷の温かさやありがたみを感じられたんですね。
原:そうです。家族の言葉も大きかったです。サッカーをやめたいと思ったこともありましたが、母から「自分で選んだ道なら3年間やりきるべきだ」と言われました。たとえプレーできなくても、支える立場や応援する立場で努力を続けることも大切だと教えてもらい、心が動かされました。そのおかげで「もう一度がんばろう」と気持ちを切り替えることができました。飯塚に戻ってからはサッカーのスイッチが入り、リハビリも真剣に取り組んで、復帰を果たして今に至ります。
岩田社長:親元で育ち、家族の支えを当たり前のように受けていた中で、一度外に出て暮らしてみると、改めて家族や地元の人たちの温かさ、支えてくれるありがたさに気づくことがあります。原さんも、ケガという逆境を機に一度立ち止まったとき、自分の原点に立ち返る機会を得たのでしょうか。
原:まさにそうで、原点に戻れた感覚があったのは大きかったです。「自分は何をするために飯塚高校に来たのか」を問い直したことが、前を向くきっかけになり、成長につながっていると思います。
岩田社長:どん底の時期を越えてきたからこそ言える言葉ですね。素晴らしいです。
絶望的な逆境を乗り越え、未来を切り拓いた
原:次に伺いたいのは、会社を経営されていて、これまで困難に感じたことやそれを乗り越えてこられた経験です。
岩田社長:2020年のコロナ禍ですね。外食産業向けの卸業を営む当社は、緊急事態宣言に伴う飲食店への時短営業や酒類提供の自粛要請、人々への外出自粛要請などの影響で、売上が一時90%減となりました。
原:90%減ですか……。僕たち学生や学校もコロナで大きな制限を受けていましたが、外食関係の事業をしている方はより大きなダメージを受けていたと思います。当時、売上や利益が大幅に下がっていたとき、どんなことを考えていましたか?
岩田社長:当初は自社で抱える在庫が賞味期限切れになる前に、お客様にできる限りお安く販売するのはどうか、と考えていました。そうすると、お客様から「いくら安くするといっても、営業ができないのだから買えない」とお叱りを受け、自分たちの理念を見失っていたと気づかせていただいて。おかげで、岩田産業グループの使命である「お客様の繁盛のお手伝い」といった理念に立ち返り、お客様のお役に立つような新規事業を11個立ち上げることができました。
原:11個もですか……! ひとつ立ち上げるだけでも大変だと思うのですが、すごいですね。
岩田社長:その当時は時間だけはあったので(笑)。ただ、見落としてはならない視点は、単に新規事業をつくるだけでなく「課題解決を通じてお客様のお役に立つこと」です。それが結果として会社の成長にもつながりました。危機的状況のあと、社員全員で力を合わせて難局を乗り越え、2023年、2024年には過去最高の売上と利益を達成しました。さらに2025年にはそれを更新する見込みです。逆境の中もがき苦しみましたが、その逆境を逃げずに受け入れ、その逆境を乗り越えるために努力してきたからこそ、今があります。
原:大きな困難と向き合ってきて、より強い組織になっていったんですね。これから岩田産業をどんな会社にしていきたいと考えていますか?
岩田社長:逆境という大きな困難を乗り切るため、社員全員で努力をしたことで「絆」ができ、心がひとつになったことで、強い組織になったと思います。名実ともに「九州で価値あるナンバーワン企業」になることを目指しています。九州で最もお客様に信頼され、必要とされる企業になりたいです。そのためには、社員一人ひとりが成長し、より多くのお客様の課題を解決できる企業になることが近道だと考えています。そのためには、社員一人ひとりが成長できる環境を整え、結果として会社全体も成長していく、そうした循環をつくっていくことが重要です。
現在の売上は約470億円。コロナ禍では一時的に失った損失を2年で取り戻し、今では過去最高の売上を更新中です。今年は売上500億円企業を目指して、全社一丸となって挑戦しているところです。
「兎と亀」の物語に見る、成長できる組織のあり方
原:新たなフェーズに入っていっているんですね。岩田社長が考える「社員が成長できる環境」について詳しく教えていただきたいです。
岩田社長:私は「成長できる環境」の条件として、以下の5つが重要だと考えています。
・チームや組織が同じ目標に向かって挑戦する
・挑戦の機会がある
・サポート体制
・心理的安全性(自由に意見を言える雰囲気)
・多様なタイプの人材を受け入れる土壌がある
この5つを聞いて原さんが感じたことがあれば教えてください。
原:飯塚高校サッカー部は、スローガンに「兎を追い越す亀となれ」を掲げています。この考え方は岩田産業さんと近いのではとも感じました。僕は飯塚高校に入る前にこのスローガンを知って、ここならきっと3年間で確実に成長できると確信したんです。それが、この学校を選んだ大きな理由のひとつでした。
僕は中学までは、もともとの能力や体格が周りより少し恵まれていたおかげで、そこまで努力をしなくてもなんとかやれていました。でも、高校では自分より能力の高い選手がたくさんいて、これまで通りのやり方では通用しないなと気づけたんです。
なので入学してからは、毎日少しずつでも努力を積み重ねることを意識してきました。やっぱり、日々コツコツと続けることが、何より大事だと思っています。
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岩田社長:「兎を追い越す亀となれ」いい言葉ですね。大好きです。私も当社との親和性を感じました。現在ユニフォーム腕部分に入れてもらっている当社のロゴは「岩田」の“i”と“w”を組み合わせたデザインで亀の形に見えることから、私たちは“タートルウィン(亀が勝つ)”と名付けました。これは当社のコーポレートアイデンティティであり、プライベートブランドの商品にも使っています。「タートルウィン印(TW印)」という商標も持っています。
「鶴は千年、亀は万年」と言われますが、「亀」のようにゆっくりでも長く続けることの価値を大切にしたいという想いを込めています。亀は一時的には兎に負けるかもしれませんが、コツコツと少しずつ前に進む力こそが、長く愛され、成長を続ける企業の姿だと考えています。だからこそ、私たちは「毎年5%の成長」を目標に掲げ、持続的に前進していく会社を目指しています。
原:びっくりしました! 岩田産業さんと飯塚高校サッカー部のベースとなる思想は本当に近いものがありますね。岩田社長がおっしゃるように、さまざまな能力やタイプの人たちが集まって、互いに刺激し合いながら良い組織をつくっていくという考え方は、サッカーの世界でもそのまま当てはまると思います。
うちのサッカー部は現在約190人という大所帯です。その中でチームワークやリーダーシップがどう発揮されるかはとても重要なテーマですし、それが全体の力につながっていると感じています。
(後編「特別対談:「当たり前をコツコツ続ける人や会社が応援される」原夢希×岩田産業 代表取締役社長 岩田章正」に続きます)
企画・構成/池田園子